大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和56年(行ス)3号 決定 1981年9月29日

抗告人(被申立人) 福岡県教育委員会

相手方(申立人) 綱脇博幸 外五名

主文

一  原決定中相手方らに関する部分を取り消す。

二  相手方らの本件各申立をいずれも却下する。

三  本件申立費用のうち抗告人と相手方らとの間に生じた分及び抗告費用は相手方らの負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。

二  本件記録によれば、相手方らは、各主張の福岡県立高等学校及び同県立特殊学校教諭として勤務していたものであるが、抗告人から昭和四三年七月一三日付で各懲戒免職処分(以下「本件処分」という)を受けたので、同年八月一四日抗告人を被告として原裁判所に本件処分取消請求の訴(昭和四三年(行ウ)第七七号事件、以下「本案事件」という)を提起し、右処分によつて生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があることを理由として、原裁判所に同処分の効力停止の申立をなしたところ、原裁判所は昭和五六年七月二九日、本案事件につき相手方ら勝訴の判決を言い渡すとともに、右申立を認容する決定をしたことが明らかである。

そこで、相手方らにつき、本件処分により生ずる回復の困難な損害を避けるため、同処分の効力を停止すべき緊急の必要があるか否かについて判断する。

相手方らは、この点につき、「相手方らはいずれも賃金を唯一の生活の資とする労働者であるところ、本件処分により右賃金を失つて生活上の困難に陥り、また精神的にも大きな打撃を受け、回復し難い損害を蒙りつつあるので、右処分の効力の停止を求める緊急の必要性がある。」と主張する。

しかしながら、抗告人提出の疎乙第三号証、第二四号証、第二五号証及び相手方ら各審尋の結果によれば、相手方らは、本件処分の結果福岡県より給与を受けることができなくなつたが日本教職員組合(以下「日教組」と略称する)又は福岡県高等学校教職員組合(以下「高教組」と略称する)の救援規定による救援の対象となり、主としてこの救援金の支給を受けることによつて生活を維持してきたこと、右救援金の支給は、日教組又は高教組所属の組合員が組合運動を行つたために受けた損害を補償することにより、組合の団結を維持、強化することを目的とするものであつて、本件の如く免職処分を受けた組合員に対しては、本人の希望により、本案事件終了時又は六二才に達する年度末まで、「在職することによつて取得する給与相当額」が補償されることになつているが、少なくとも本案事件が終了するまではその返納をする義務はないと解せられること、相手方らは、いずれも現在五六才以下であるので、今後も相当期間右救援金の支給を受ける資格を有するものであるが、そのほかに、日教組又は高教組の免職者休職者貸付規定により、右給与補償以外に緊急に多額の金銭を必要とするときは、相当額の貸付を受けられることになつており、現に住宅建築資金等の貸付を受けていること、本案事件及び本件執行停止申立事件を含む争訟費用は、従来すべて日教組又は高教組が負担してきており今後も相手方らがこれを負担する必要はないこと、以上の各事実が疎明される。

右事実によれば、相手方らは、本件処分後も、同処分がなければ当然取得することのできた給与に相当する救援金の支給を受け、主としてこれにより生活を維持してきており、本案事件等の争訟費用については、その負担を免れているものであるところ、右救援金が本件処分後約一三年間にわたつて支給されてきたこと及び救援金の前記の如き性格等に照らして、これが将来合理的な理由なくして打ち切られるようなことがあるとは到底考えられず、それ自体少なくとも被救援者たる相手方らの必要限度の生活の資としての安定性を備えているものといわざるを得ないから、現在本件処分の効力を停止して給与を支給しなければ、相手方らがその生活を維持することができないほど経済的に差し迫つた状態にあるとは認め難い。

また、相手方らが本件処分により相当な精神的苦痛を受けていることは明らかであるが、それが本件処分に伴い通常発生する程度のものである限り、これのみをもつて直ちに処分の効力を停止しなければならないほどの回復困難な損害があるものと解するのは相当でなく、右の程度を超える甚大な苦痛を蒙つていることについての疎明はない。

更に、本案事件は昭和四三年八月の提訴以来既に約一三年を経過し、その間相手方らは現場の教師として活動する場を閉ざされ、本案事件終了までにはなお相当な時間を要すると考えられるところ、右のような長期間にわたる教育実践活動からの疎隔は、相手方らが教師としてその職責を遂行するために必要な研究、修養等に或る程度の支障をきたすことは否定できないところであるが、教師の職務は現場における教育実践のみがすべてではなく、実践の場を離れている間においても、絶えず自主的な研修によつて教師としての技能、識見、人格の陶冶、向上に努めることができなくはないのであるから、相手方らが長期間教育の実践を離れることによつて、必然的に回復の困難な損害を蒙るものとするのは相当でない。

そのほか、本件処分により相手方らに生ずる回復の困難な損害を避けるため、同処分の効力を停止すべき緊急の必要があることについての疎明はない。

三  そうすると、相手方らの本件各申立は、その余の点につき判断するまでもなく理由がないので、これを認容した原決定は失当である。

よつて、原決定中相手方らに関する部分を取り消し、相手方らの本件各申立を却下すべく、申立費用及び抗告費用は相手方らに負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判官 高石博良 谷水央 足立昭二)

「抗告の趣旨及び理由」<省略>

原審決定の主文及び理由

主文

一 被申立人が、申立人綱脇博幸、同佐々木清隆、同相部開、同松濤勲、同緒方信正、同佐藤周三に対し、昭和四三年七月一三日付でした各懲戒免職処分は、いずれも本案判決確定に至るまでその効力を停止する。

二 その余の申立人らの本件各申立を、いずれも却下する。

三 申立費用中、申立人綱脇博幸、同佐々木清隆、同相部開、同松濤勲、同緒方信正、同佐藤周三と被申立人との間に生じたものは、被申立人の負担とし、その余の申立人らと被申立人との間に生じたものは、その余の申立人らの負担とする。

理由

第一申立の趣旨

被申立人が申立人らに対し、昭和四三年七月一三日付でした各懲戒免職処分(以下「本件各処分」という。)は、いずれも本案判決確定に至るまでその効力を停止する旨の裁判を求める。

第二当事者の主張

申立人佐田を除くその余の申立人らの申立の理由は、別紙(一)の、申立人佐田の申立の理由は、別紙(二)の各執行停止決定申立書の「申立の理由」欄記載のとおりであり、被申立人の答弁及び主張は、別紙(三)及び(四)の各意見書の「申立の理由に対する認否」及び「被申立人の主張」欄記載のとおり(別紙(四)が申立人佐田関係、別紙(三)がその余の申立人らの関係)である(但し、申立書及び意見書とも、一部原文を削除、訂正した部分がある。)。

第三当裁判所の判断

一 申立人らが、被申立人を被告として本件各処分の取消訴訟を提起し(当庁昭和四三年(行ウ)第七七号事件。以下「本案事件」という。)、同訴訟が適法に係属していることは、当裁判所に明らかである。そして、申立人らが、本件各処分当時申立人ら主張の福岡県立高等高校及び同県立特殊学校に勤務していた教諭及び教頭であること、被申立人が、昭和四三年七月一三日付で申立人らに対し、申立人ら主張の処分理由で本件各処分をしたことは、当事者間に争いがない。

二 本件疎明及び本案事件記録によれば、申立人佐田、同綱脇、同佐々木、同相部、同松濤、同緒方、同佐藤の本案事件の各請求は、いずれも理由があると認められるが(当裁判所において昭和五六年七月二九日勝訴判決言渡)、その余の申立人らの本案事件の各請求は、いずれも理由がないと認められる。したがつて、本案につき理由がないと認められる右申立人らの本件各申立は、その余の点につき判断するまでもなく却下を免れない。

三 本案につき理由があると認められる前記七名の申立人らのうち、まず、申立人佐田を除くその余の六名の申立人らにつき回復困難な損害を避けるため緊急の必要があるか否かにつき検討する。

本案事件は、昭和四三年八月の提訴以来既に約一三年を経過し、その間右申立人らは、教員として活動する場を閉ざされ、本案判決確定までには今後なお時間を要すると考えられるところ、右のような長期間にわたる教育活動からの疎隔は、右申立人らが教員としてその職責を遂行するために必要な研究、修養等に多大の障害をもたらすと解せられること、本件疎明及び本案事件記録によると、右申立人らは、本件各処分を受けるまでは主として被申立人から支給される給与によつて生計を維持してきたものであることがうかがえるが、長期間の争訟による経済的負担により右申立人らの生活にも深刻な影響を与えているものと推測されること等を考え合わせると、右申立人らは、本件各処分によつて、その生活及び教員としての研究活動等の面で回復の困難な損害を受けるものと認めるのが相当であり、右各処分の効力を停止する緊急の必要があるというべきである(本件疎明によれば、福岡県高等学校教職員組合には、被申立人主張の救援金の制度が設けられていることがうかがえるが、しかし、救援金制度の趣旨からして、免職者に対する右救援金の交付は、法的救済が可能なものについては、現実に何らかの法的救済が可能となるまでの救済措置と解せられるから、本案につき理由があると判断される現段階において、右救援金の交付があることを理由に緊急の必要性がないと評価するのは相当でない。)。そして、右本件各処分の効力を停止することにより、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあることをうかがわせるに足る資料はない。

四 次に、申立人佐田につき検討する。

本案記録によれば、右申立人は、現在既に五八、九歳前後の年令に達していることがうかがえるところ、本件疎明によれば、被申立人は、五八、九歳の県立学校の教員を退職勧奨の対象としていることがうかがえるから、右申立人の年令に達した大方の者は、そのころに現場の教職を離れているものと推測される。したがつて、申立人佐田については、前項申立人らのように今後の教育活動の面に与える障害を考慮する必要性も少いと考えられるから、回復困難な損害を避けるため緊急の必要があるとはいえない。

五 よつて、申立人綱脇、同佐々木、同相部、同松濤、同緒方、同佐藤の本件各申立は、いずれも理由があるからこれを認容し、その余の申立人らの本件各申立は、いずれも理由がないからこれを却下することとし、申立費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり決定する。

別紙(一)

執行停止決定申立書

申立の理由

一 当事者

申立人らは、昭和四三年七月当時別表処分等一覧表「所属学校、職名」欄記載の各福岡県立高等学校等に勤務する地方公務員たる教諭で、福岡県高等学校教職員組合(以下「高教組」という。)に所属し、右組合の別表処分等一覧表「組合役職」欄記載の各地位にあつたものである。

被申立人は、福岡県下の教育行政事務を所管する教育行政機関であつて、申立人らの任命権者である。

二 懲戒処分の存在

被申立人は、昭和四三年七月一三日付で申立人らに対し、申立人らが別表処分等一覧表「処分の理由」欄記載の行為をし、それが地方公務員法二九条一項に該当するという理由で懲戒免職処分をした。

三 懲戒処分の取消原因

しかし、右の各懲戒処分(以下「本件処分」という。)は、次に述べるとおりいずれも違法であるから取り消さるべきである。

1 任命権者は、職員に対し、懲戒その他その意に反すると認める不利益な処分を行う場合においては、その職員に対し処分の事由を記載した説明書を交付しなければならない(地方公務員法四九条一項)。この手続は、当該職員に処分の根拠となつた具体的事実を知らせて、処分に対する救済の手段を尽させるためのものであることは、右の規定が地方公務員法の第三章第八節第四款「不利益処分に関する不服申立」の冒頭に置かれていることからも明らかである。それにもかかわらず、被申立人は、本件処分に際して申立人らに交付した各処分説明書において、その理由として別表処分等一覧表「処分の理由」欄記載の極めて抽象的な理由を示したのみで何ら具体的な事実を示していない。のみならず、申立人らがその後被申立人に対して再三処分の根拠となつた具体的な事実を明らかにするよう要求してきたにもかかわらず、今日に至るまでそれを明らかにしていない。

このような状態では、申立人らは、何を根拠に処分されたのか全くわからず、本件処分について救済手段を講ずるのに極めて困難な状態に陥つている。

このように、処分の根拠になつた具体的事実がなにひとつ示されない本件処分は、地方公務員法四九条に著しく違反し違法である。

2 申立人らには、いずれも別表処分等一覧表「処分の理由」欄記載の行為をした事実はないから、本件処分は違法である。

3 本件処分は、次に述べるように、申立人らが高教組のために正当な行為をしたことの故をもつて行われたもので地方公務員法五六条に違反し違法である。

(一) 被申立人と申立人らが所属する高教組との間には、被申立人が新たに校長を任命する場合には、高教組が推薦した者及び被申立人が高教組の承認を得た職員から選んで任命するという方法が二〇年間にわたつて行われており、この方法は、従来被申立人及び高教組により、学校の民主的運営を保障し、よつて民主教育を実現、推進するための望ましいものとして遵守されてきたものであつて、この意味において適法な内容をもつ労働慣行として確立されていた。しかるに、被申立人は、昭和四三年四月一日及び二日の同年度における一五名の新任校長の任命に際し、右慣行に違反して高教組の推薦のない八名、承認のない職員一名を校長に任命した。

申立人らの所属する高教組では、右の民主的慣行を被申立人により破壊されるのを防ぐために、被申立人に対し右慣行の遵守を要求して交渉するとともに、高教組に推薦されないにもかかわらず新たに校長に任命された者及び教育庁職員から任命された者(以下「非推せん新校長」という。)一二名に対し校長を辞退するように説得、交渉をするという方針を出した。

(二) 右の方針によつて高教組は、非推薦新校長に対して校長を辞退するように説得、交渉活動を行つたが、そこで行われたのはあくまでも説得であり交渉であつてそれ以上のものではなく、もちろんそれによつて校務の正常な運営を阻害するとか、教育公務員の信用を失墜させるような性質のものではない。また、右の説得、交渉を行うことによつて、これにあたつた高教組組合員が職務の遂行を怠つたという事実もない。

(三) 以上のように、非推薦新校長に対する説得、交渉行為は、その目的からみても、手段の面からみても正当な組合活動である。したがつて、申立人らのなかに、右の説得、交渉行為を指導し、あるいはみずから行つた者があるとしても、それを理由としてなされた本件処分は地方公務員法五六条に違反し違法である。

4 仮に、申立人らのなかに地方公務員法二九条一項の見地からいくばくかの非難さるべき行為をした者があつたとしても、その非難さるべき程度に比して本件処分はいずれもはなはだしく苛酷であつて均衡がとれておらず、このような処分は著しく不公正であるから地方公務員法二七条一項に違反し違法である。

四 申立人らは、いずれも賃金を唯一の生活の資とする賃金労働者である。本件処分により申立人らは、いずれも唯一の生活の資を失つて生活上の困難に陥り、また、精神的にも大きな打撃をこうむつて著しい損害を受け回復し難い損害をこうむりつつあるので、その執行の停止を求める緊急の必要性がある。

五 よつて、申立人らは、昭和四三年八月一四日本件処分の取消を求める本訴を福岡地方裁判所に提起したが、前記理由により本案判決の確定に至るまで坐して待つことができないので、本申立に及んだ。

処分等一覧表

番号

申立人氏名

所属学校、職名

処分の種類

及び程度

処分の理由

組合役職

1

待鳥惠

明善高等学校 教諭

免職

上記の者は、福岡県高等学校教職員組合の執行委員長として、他の執行委員らと共謀し、昭和四三年四月一日及び同年四月二日付発令の校長昇任人事に反対する闘争を企て、四月以来今日に至るまで三か月余の長期にわたつて組合員をして校長の着任、登校及びその職務の遂行を実力をもつて阻止又は妨害せしめ、みずからもまた現地に赴き、これらの行動を指導及び実行し、もつて校務の正常な運営を阻害するとともに、全体の奉仕者たる教育公務員の信用を著しく失墜した。

委員長

2

林宏

鞍手農業高等学校 教諭

免職

上記の者は、福岡県高等学校教職員組合の副執行委員長として、以下1に同じ。

副委員長

3

中西績介

田川農林高等学校 教諭

免職

上記の者は、福岡県高等学校教職員組合の書記長として、以下1に同じ。

書記長

4

上村正則

香椎高等学校 教諭

免職

上記の者は、福岡県高等学校教職員組合の執行委員として以下1に同じ。

執行委員

5

牧野正國

伝習館高等学校 教諭

免職

4に同じ

執行委員

6

露口勝雪

田川農林高等学校 教諭

免職

4に同じ

執行委員

7

平木時雄

福岡聾学校 教諭

免職

4に同じ

執行委員

8

古賀要

嘉穂農業高等学校 教諭

免職

4に同じ

執行委員

9

江口義一

朝倉東高等学校 教諭

免職

4に同じ

執行委員

10

綱脇博幸

水産高等学校 教諭

免職

上記の者は、福岡県高等学校教職員組合宗像支部長として、同組合が企画した昭和四三年四月一日及び同年四月二日付発令にかかる新任校長の着任拒否闘争に関して、当該支部の拒否闘争を指導し、かつ、みずからも四月以来今日に至るまで三か月余の長期にわたつて、藤幸人校長の着任、登校及びその職務の遂行を実力をもつて阻止又は妨害するなど校務の正常な運営を阻害するとともに、職務専念義務に違反し、全体の奉仕者たる教育公務員の信用を著しく失墜した。

宗像支部長

11

佐々木清隆

久留米聾学校 教諭

免職

組合役職が「久留米支部長」、着任阻止等の対象たる校長名が「宮尾和夫」であるほか、10に同じ。

久留米支部長

12

相部開

北九州盲学校 教諭

免職

上記の者は、福岡県高等学校教職員組合八幡支部北九州盲学校分会長として、同組合が企画した昭和四三年四月一日及び同年四月二日付発令にかかる新任校長の着任拒否闘争に関して、当該分会の拒否闘争の推進を図つて、積極的に阻止行動を行い、四月以来今日に至るまで三か月余の長期にわたつて直接の上司たる勝間田敏男校長の着任、登校及びその職務の遂行を阻止又は妨害するなど、校務の正常な運営を阻害するとともに、職務専念義務に違反し、全体の奉仕者たる教育公務員の信用を著しく失墜した。

北九州盲分会長

13

松濤勲

水産高等学校 教諭

免職

組合役職が「宗像支部水産高等学校分会長」、着任阻止等の対象たる校長名が「藤幸人」であるほか、12に同じ。

水産分会長

14

緒方信正

久留米聾学校 教諭

免職

組合役職が「久留米支部久留米聾学校分会長」、着任阻止等の対象たる校長名が「宮尾和夫」であるほか、12に同じ。

久留米聾分会長

15

佐藤周三

鞍手農業高等学校 教諭

免職

組合役職が「直鞍支部鞍手農業高等学校分会長」、着任阻止等の対象たる校長名が「清水喜代人」であるほか、12に同じ。

鞍手農分会長

別紙(二)

執行停止決定申立書

申立の理由

一 当事者

申立人は、昭和四三年七月当時別表処分等一覧表「所属学校、職名」欄記載の福岡県立高等学校に勤務する地方公務員たる教諭で、被申立人により同校の教頭にあてられていたものである。

被申立人は、福岡県下の教育行政事務を所管する教育行政機関であつて申立人らの任命権者である。

二 懲戒処分の存在

被申立人は、昭和四三年七月一三日付で申立人に対し、申立人が別表処分等一覧表「処分の理由」欄記載の行為をし、それが地方公務員法二九条一項に該当するという理由で懲戒免職処分をした。

三 懲戒処分の取消原因

しかし、右懲戒処分(以下「本件処分」という。)は、次に述べるとおりいずれも違法であるから取り消さるべきである。

1 任命権者は、職員に対し、懲戒その他その意に反すると認める不利益な処分を行う場合においては、その職員に対し処分の事由を記載した説明書を交付しなければならない(地方公務員法四九条一項)。この手続は、当該職員に処分の根拠となつた具体的事実を知らせて、処分に対する救済の手段を尽させるためのものであることは、右の規定が地方公務員法の第三章第八節第四款「不利益処分に関する不服申立」の冒頭に置かれていることからも明らかである。それにもかかわらず、被申立人は、本件処分に際して申立人に交付した処分説明書において、その理由として別表処分等一覧表「処分の理由」欄記載の極めて抽象的な理由を示したのみで何ら具体的な事実を示していない。のみならず、申立人がその後被申立人に対して再三処分の根拠となつた具体的な事実を明らかにするように要求してきたにもかかわらず、今日に至るまでそれを明らかにしていない。

このような状態では、申立人は、何を根拠に処分されたのか全くわからず、本件処分について救済手段を講ずるのに極めて困難な状態に陥つている。このように、処分の根拠になつた具体的事実がなにひとつ示されない本件処分は、地方公務員法四九条に著しく違反し違法である。

2 申立人には、別表処分等一覧表「処分の理由」欄記載の行為をした事実はないから、本件処分は違法である。

3 仮に、申立人に地方公務員法二九条一項の見地からいくばくかの非難さるべき行為があつたとしても、その非難さるべき程度に比して本件処分はいずれもはなはだしく苛酷であつて均衡がとれておらず、このような処分は著しく不公正であるから地方公務員法二七条一項に違反し違法である。

四 申立人は、賃金を唯一の生活の資とする賃金労働者である。本件処分により申立人は、唯一の生活の資を失つて生活上の困難に陥り、また精神的にも大きな打撃をこうむつて著しい損害を受け回復し難い損害をこうむりつつあるので、その執行の停止を求める緊急の必要性がある。

五 よつて、申立人は、昭和四三年八月一四日本件処分の取消を求める本訴を福岡地方裁判所に提起したが、前記理由により本案判決の確定に至るまで坐して待つことができないので、本申立に及んだ。

処分等一覧表

氏名

所属学校、職名

処分の種類

及び程度

処分の理由

佐田正比古

水産高等学校 教諭

免職

上記の者は、久留米聾学校教頭として、管理職の地位にあり、校長を補佐すべき立場にありながら、福岡県高等学校教職員組合が企画した昭和四三年四月一日及び同年四月二日付発令にかかる新任校長の着任拒否闘争に関して、当該分会の闘争に積極的に参加し、四月以来今日に至るまで三か月余の長期にわたつて直接の上司たる宮尾和夫校長の着任、登校及びその職務の遂行を阻止又は妨害するなど、校務の正常な運営を阻害するとともに、職務専念義務に違反し、全体の奉仕者たる教育公務員の信用を著しく失墜した。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例